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最高裁判所第三小法廷 平成10年(あ)39号 決定 1999年12月21日

主文

本件上告を棄却する。

理由

検察官の上告趣意は、判例違反をいう点を含め、実質は量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

所論にかんがみ、被告人に対する量刑について、職権により判断する。

本件は、借金の返済や愛人との生活費等のねん出に苦慮した被告人が、両親宅において、実父(当時七九歳)に金を無心し、これを拒絶されたことなどから、実父を殺害して金品を強取することを決意し、そばにあったナイロンひもを実父の頸部に巻き付けて強く絞め付け、その場で窒息死させて殺害し、次いで、実母(当時七四歳)が買い物から帰ってきたため、金品を強取するには実母も殺害するほかないと決意し、実母の頸部に前記ナイロンひもを巻き付けて強く絞め付け、その場で窒息死させて殺害した上、両親所有の現金、郵便貯金通帳、印鑑等を強取し、後日、布団袋二個にそれぞれ詰め込んだ両親の各死体を自動車で山中に運び、これをがけ下に投棄して遺棄したほか、強取した郵便貯金通帳及び印鑑を使用して、郵便貯金払戻金受領証等を偽造行使し、郵便貯金合計二六四万円をだまし取ったという強盗殺人、死体遺棄、有印私文書偽造、同行使、詐欺の事案である。自己中心的で身勝手極まりない犯行であり、動機に酌量の余地はなく、これまで深い恩情を注いでくれた年老いた両親を順次絞殺した犯行の背倫理性とその態様の冷酷さは強い非難に値し、両親の尊い生命を奪った結果は誠に重大である上、社会一般に及ぼした影響も軽視することができないから、被告人の罪責は極めて重いものといわざるを得ず、本件は、当然、被告人に対し死刑を選択することも考慮しなければならない事案というべきである。しかし、両親の殺害及び金品の強取は、事前の計画に基づくものではなく、その場で思い付いて行われたものであることのほか、被告人には前科がなく、本件前の一時期を除き、定職に就き、犯罪とは無縁の生活を送っていたこと、被告人は自らの命をもって本件を償いたいとの心情を吐露して、深く反省悔悟していることの事情があり、これらの点を含む諸般の事情を慎重に考慮すると、被告人を無期懲役に処した第一審判決を維持した原判決について、その量刑が軽すぎてこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとまでは認めることができない。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 元原利文 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道)

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